INSOMNIA(不眠症)U



ガチャ。
扉の開く音が聞こえて、俺は少し身構える。
耳慣れた足音。
フェンスのところで止まった。
シュボッ。
ライターの火をつける音。
俺は、口を押さえた。
(先輩だ・・・!三上・・・先輩・・・)
そのとき、声が聞こえた。
聞きなれた、低い声。
「・・・くみ。たくみ・・・」
口を押さえたままの手に、冷たいものを感じて手を見た。
(俺・・・泣いてる?)
「・・・っく。うっ・・・く」
涙を抑えようとして、出てくる嗚咽。
三上先輩がこっちを向いた気配がした。
別に悪いことをしているわけではないのに、何だかきまりわるくなって、隠れようと場所を探した。
近づいてくる足音。
「誰か、居るのか?」
タンクに回り込んでくる。
「・・・たくみ・・・。お前、なにやってんだ?」
久しぶりに聞く声に、涙が止まらない。
「おま、何泣いて・・・っ」
先輩に抱きしめられた。
「なんで?・・・俺のこと、嫌いになったんじゃ、ないの?」
無言で俺を抱きしめる先輩。
久しぶりのぬくもりに俺は泣いた。
「ごめん」
そういって、俺から離れていく背中に叫ぶ。
「・・・んでっ!なんで逃げるんだよ!!あんたはいつもそうやって・・・!」
足音が止まる。
「・・・ごめん」


青空の下、先輩がいなくなった後も、俺は泣き続けた。


          □


「・・・くん。笠井君」
目を開けると、夕焼けがまぶしくて、目を細めた。
隣りには女の子がしゃがんでいた。
昼間、告白してきた女の子だ。
「やっと起きた」
そういって微笑む彼女はやっぱりあの人に似ていて、目を逸らした。

「どこにもいないから探しちゃった。
サッカー部に行って聞いてみたら、部活にも出てないって言うし」
心配しちゃった、と言って彼女は首をすくめた。
「ごめんね。気持ちよかったから寝ちゃったんだ」
そう言って笑う。
「・・・ねぇ」
「ん?」
「・・・」
声をかけたきり何も言わない彼女。
不思議に思って、顔を見る。
彼女は何か言いたげに口を開きかけてはつぐんでいた。
「どうしたの?」
彼女に聞くと、彼女は神妙な面持ちで意を決したかのように口を開いた。
「・・・ねえ、笠井君て付き合ってた人いるよね?どんなひとだったの?」
「・・・いきなりどうしたの?」
触れられたくない。
「いいから答えて」
どうしても触れられたくない。
「・・・いいじゃん、そんなの。どんな人だって。今は君と付き合ってるんだから」
そう言って空を見た。
空は、刻々と姿を変えていく。
寝てしまう前は夏特有の青色だったのに、茜色に変わり、今は紺色へと姿を変えつつある。

人だって、変わる。
変わらない人なんて、いない。

風も出てきた。

「・・・帰ろうか」
彼女にそう言って立ち上がった。
「笠井君」
「なに?」
振り向いて、彼女に問う。
「私、側にいるから!前の人のこと、忘れられなくたっていいから!
私、笠井君のこと好きだから!」
真剣にそういってくれる彼女を、可愛いと思った。

「ありがとう」

君のこと、ホントに好きになれるかもしれないね。
あの人のことを、忘れられる日が来るかもしれない。
あのまなざしも、笑顔も、「しょーがねぇな」という口調も。
・・・全部。

「・・・帰ろう」
彼女と肩を並べて歩き出す。
夕闇が深くなりつつある屋上を後にした。


―――――――――あとがき。

うーん。
毎回言ってることだけど、
文才・・・。
欲しい。

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