062:オレンジ色の猫*

    『あれ……。
    またあの位置に座ってる。
    眠くならないのかな。
    いつも一生懸命ノート取ってるあいつ、名前はなんていうんだろう。』

    言語学の授業で重なる「あいつ」はいつも同じ席に座っている。
    俺は「あいつ」を知っているけれど、「あいつ」は多分俺のことを知らない。 
    お昼を食べた後、四限の授業は、俺にとって火曜日に受ける最後の授業だ。
    この授業が終われば帰れる。
    急ぎ足で駅を目指して、急行電車でさっさと帰る。
    本当は、こんな授業はすっ飛ばして帰ってもいいんだけど。
    でも「あいつ」がいるから、「あいつ」を見るために出る。

    「笠井、笠井」

    「なんだよ」隣りに座った友達に声をかけられて、ふと我に返る。
    
    「さっき先生が言ってたのってココ?」
    
    「うん、そう。愛情についての所ね」

    目を上げて、「あいつ」を確認する。
    いつも結んでいる髪を今日は下ろしていて、その髪の毛がたまらなく綺麗だと思った。

    『あ、シャーペンを落とした。』

    彼女が拾うために身をかがめると、夕焼け色に反射して、
    髪の毛がさらさらきらきらと光った。
    赤いペンケースから、ラインマーカを取り出して、テキストに線を引く。
    髪の毛は彼女の肩の動きにつられてさらさらと動く。
    授業の時だけかけるふちなしのメガネは、
    黒板の板書を写そうと頭を上げ下げするたびにきらきらと光る。
    
    「笠井。寝てるの?」友達が肩をゆする。

    「……起きてるよ」
    
    『……髪、長いよなぁ……。』

    じっと、見つめる。
    やがて、教授が動き出して、出席カードが配られる。
    「あいつ」の列の後ろの方に座っている俺は、
    彼女がカードを後ろに回すまでの一挙手一投足を見守る。
    華奢な指が、一枚とって、後ろに回す。
    そのときだった。
    彼女と目が合ったのは。

    ――目を、逸らすことができなかった。

    授業が終わりに近づいて、みんなが片づけを始めて、
    回りがざわざわし始めても、目を逸らすことは、できなかった。

    「……笠井?カード来たぞ」

    「あ、あぁ」ほら、と差し出されて返事をする。

    彼女は、既に前を向いていた。
    片づけを始めて、帰ろうとする。
    その背中をじっと見ていた。
    一瞬だけ、一瞬だけ。
    彼女が後ろを向いた時、目を細めたのが見えた。
    それは、さながら猫だった。
    
    オレンジ色に光る、猫だった――。



    コメント---ドリー夢とも、同人小説ともすこし違うような…;
          大学生になったタクちゃんを書いてみました。
          リクしてくれていたN・G、遅くなってすまん〜〜! > <;
          二年越しだよ…(滝汗)。
          やっとこさリク解消です!ふ〜。

    2004.08.04.




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